幽栖録

極私的備忘録

『天日坊』 渋谷・コクーン歌舞伎 第十八弾

河竹黙阿弥 原作「五十三次天日坊」
串田和美 演出・美術
宮藤官九郎 脚本
天日坊(てんにちぼう)

ちょっと気弱で生真面目な感じの法策が、お三婆ぁを殺し、さらには河原で出会った百姓と入れ替わるために(自分の独白を聞かれたということもあり)その百姓も殺してしまうという展開が、どうも説得力が弱いんじゃないのと思いつつ見ていると、その後の物語は、いわばこの点に説得力を持たせるための筋と勘九郎の演技かな、という印象である。で、勘九郎は上手かった。

あらすじ<https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/12_kabuki/story.html

鎌倉時代木曽義仲が将軍・源頼朝の命令によって討たれた後、都で化け猫騒動が起こる。義仲に娘を嫁がせていた猫間中納言が謀反の疑いを掛けられ自害、その怨霊が帝の愛猫に乗り移っていたのだ。北条時貞と修験者・観音院の力で化け猫は退治された。観音院の弟子、法策は「生き延びよ」という化け猫の不思議な一言を聞く。法策はふとしたことから、飯炊きのお三婆さんの死んだ孫が将軍・頼朝のご落胤であることを知った。証拠の品は頼朝自筆の御書と三条小鍛冶の短刀。拾われた子であり、身元も知れず、親族もいない法策は、ご落胤になりすますことを決意し、お三を殺して証拠の品を奪う。悪事を重ねながら鎌倉へ向かう途中、盗賊・地雷太郎やその女房で女盗賊のお六たち一味と出会い、殺されそうになるが、開き直って、自分の素性と企みを明かし、加担しないかと持ちかける。その時、お六が法策の本当の素性を見抜いた。驚く法策だが、その素性ゆえに盗賊たちも結束し、法策は天日坊と名を変えて、一同は、鎌倉へ乗り込むのだった――