幽栖録

極私的備忘録

その後、読んだ本

『家チベの歴史を書く』朴沙羅ぱくさら 筑摩書房

面白かった。どういう意味で面白かったのだろう。知らなかったこと、思ってもいなかったことに気づかせてくれた? そもそも済州チェジュ四・三事件というのを知らなかった(それらしいことはどこかで読んでいたような気もするのだが)、日本敗戦後の朝鮮半島のゴタゴタニついては、言われてみればなるほどそうだろうなと思うわけだが、実際のところ今まで考えたこともなかったな。昭和30年あたりまで?は「密航」が当たり前だった?(難民というかボートピープルというか)

下記、良い書評だった。

家の歴史を書く 朴沙羅著 「面白い」人々を迷いつつ記録 :日本経済新聞

2018/11/17付

父は在日コリアン2世で、母は日本人。1984年生まれの著者は、父の親戚を「面白い」と思ってきた。例えば、風貌はまるで極道なのに好物がアンコだという伯父がいる。大半が大阪に住む彼らは「祭祀(チェサ)」(法事)などで集まるたび、口角泡を飛ばして言い争う。ルーツは韓国の済州島だ。

一方で、彼らがどう生きてきたのか、知らなかった著者は「家(チベ)の歴史」を書くことを思いつく。そうして生まれたのが本書だが、社会学者である著者は、歴史や生活史を書くこととは何か、その行為にどんな意味があるのか、自身の迷いもあわせて記述する。それが本書の特徴であり魅力でもある。

著者の伯父や伯母には、48年の「四・三事件」に遭遇した人がいる。済州島で民衆が蜂起し多大な犠牲が出た事件で、結果、故郷を失って日本に来た人が少なからずいるが、著者の親戚の話は「犠牲者」の枠に容易に収まるものではない。民衆の徹底抗戦には無理があると冷静に考えた伯父。日本の収容所での経験を良い思い出のように話す伯母。つらかったのは、むしろ父母のケンカや、字が読めなかったことだと語る人もいる。

こうした話は従来の史実のイメージに刺激を加える。安易な意義づけに走らず、語りを再現していく著者の姿勢が誠実だ。(筑摩書房・1800円)